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3年生テーマ

「所得格差は本当に問題か?」

 

 ピケティの『21世紀の資本』を端に発し、世界中で所得格差問題がホットイシューとなっています。日本においても、1990年後半から個人間の所得格差が拡大してきているという議論がなされる一方、その主要因としては高齢化の影響であり、社会保障制度などによる再分配により、所得格差はそこまで問題でないという見方もあります。切り口を変えると、所得格差は地域間という観点からも測ることができ、物価による調整は必要ですが一人当たり県民所得だと東京都が約440万円であるのに対し、沖縄県は約200万円と2倍以上の差が開いています。また、国家間の所得格差という切り口から見れば、その差はもっと大きくなります。

 

 今回の学生の集いでは、様々な切り口がある所得格差という問題について、何が問題なのか、そもそも本当に問題なのか、を考えてみてください。その上で、どのような所得再分配制度が望ましいのか、実現可能性のある議論・提案をしていただきたいと思います。所得格差問題については、きちんとした事実解明的分析(Positive Analysis)と規範分析(Normative Analysis)が行われていれば、問題がないという結論でも問題ありません。

 

 今回は推薦図書として、トマ・ピケティの『21世紀の資本』(2014年、みすず書房、5,940円)を提示しますが、ピケティの考える所得格差と全く異なる論点から切り込む場合は、必ずしも読む必要はありません。

2年生テーマ

「男性中心の長時間労働を前提とする働き方をどのように変えたらよいか」

 

 「女性の活躍促進」はアベノミクスの3本目の矢である成長戦略の柱とされています。人口減少や少子高齢化が進む中で経済成長を実現するために、労働資源としての女性の存在に注目が集まっているのです。日本は、国際的にみても低い失業率を維持していますが、男性の就業率は極めて高いのに対して、女性の就業率は相対的にみて低い水準にあります。女性の正社員としての就業促進は、今後の日本を支える重要な切り札であるといえるでしょう。

 日本の雇用システムは、正社員として長時間働く夫を専業主婦の妻が支えるという家族モデルによって支えられてきました。そして、こうした家族モデルは、男性が外で働き女性が家庭を守るのが望ましいとする社会規範によって支えられているのです。こうした日本型雇用システムは、高度経済成長をもたらすなどプラスの側面もありました。ところが、長期雇用を前提とした雇用慣行は、現在、女性の就業を妨げる方向に作用しています。

 女性の正社員としての就業を抑圧する主要な要因は、結婚や出産といったライフイベントに伴う退職であることが知られています。育児休業制度や保育所の拡充など、就業と子育ての両立を可能とする社会インフラの整備は、女性の就業を支援する上で必要不可欠だといえるでしょう。一方で、かつての洗濯機や炊飯器の普及のように、食洗機やロボット掃除機などの登場は家事時間を短縮させ、女性の社会進出を後押ししました。経済発展の原動力となったイノベーションは枚挙に暇がありませんが、こうした経済活動が私たちの生活に大きな変化をもたらしてきたことも見過ごすことはできません。

 このように働き方の変革は、雇用環境や社会政策の改革だけでなく、自由な発想から生まれる経済活動の促進、さらには家族のあり方や性別役割分担といった価値観の変容をも我々に求めているのです。今回の学生の集いでは、こうしたシステムの複合的な関係を踏まえた上で、「男性中心の長時間労働を前提とする働き方をどのように変えたらよいか」という大きなテーマに対して正面から取り組んで欲しいと考えています。そもそも「変えるべきなのか」という規範的な問題設定から、具体的なシステム変革の方策といった実証的な問題設定まで、多様なアプローチが考えられます。意欲的な提言を期待しています。

 このようなテーマに対して、一部の文献を参考文献として取り上げることは、みなさんの視野を狭くするのではないかと考え、参考文献を提示しないことにしました。今年度のテーマに対する1つの取り組み方としては、まずは、日本経済新聞「経済教室」「やさしい経済学」のバックナンバーなどを読むことにより、現状を認識することが第一歩であると考えられます。その上で、これまでに大学の授業やゼミなどで勉強した知識を動員し、さらには足りないところは新たに補強して、独自性のある提言を模索してください。

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